バルセロナでは、毎年秋に大きなイベントが開かれています。その名を「マンガフェスティバル」。怖いことに、これ、邦訳じゃありません。入場券にカタカナでそう印刷してあのでする(汗)。ちゃんとスペイン語での名称“Salon del Manga”(サロン・デル・マンガ)というのもあるのですが、これまた訳さなくても分かるでしょう。
このたび、2003年10月24日(金)から26日(日)にかけて開催された第9回大会に参加してきましたので、その様子をお伝えします。
この大会、毎年10月末に開催されています。なお、ひらがなやカタカナぐらい読めるという人が結構いて、日本語が準公用語になっていますから言葉の心配はいらないでしょう。むしろ、日本語の方が買い物はしやすかったりします(笑) 場所は、“La Farga de L'Hospitalet”という、商業施設を備えた展示会場。かなりの広さの会場を使用していました。8,000m2――といってもわかりにくいですね。横87歩×縦163歩でした。ビッグサイトの東展示棟は、1つの区画が8,600m2ですから、そこから想像してください。昨年は5,260m2、一昨年は4,000m2だったとありましたので、順調に成長を遂げているようです。
最寄り駅は、地下鉄1号線の“Rambla Just Oliveras”。たぶん、駅から先へは地図がなくても大丈夫。この駅では若者がいっせいに降り、いっせいに同じ方向に向かって歩いていきますから。しかも、家路につこうと逆方向に進む人達は、手に手にポスターやフィギュアを手にしています。中には、どうみても『魔物ハンター妖子』としか思えない衣装をまとった人がいるし…… 後述しますが、会場には更衣室が無いため、コスプレ参加者は家で着替えてくるようです。
入場料は4ユーロ。当日券も券売所(Taquilla)で購入できます。しかし、できることなら前売券を購入してから出かけることをおすすめします。デパート「エル・コルテ・イングレス」や、銀行「ラ・カイシャ」にて、10月1日から販売していました。それを知っていたというのに、甘く見た私は、当日券売り場に行って軽く1時間以上並ぶはめになりました。なんと数千人が押し寄せていたのです。すでに会場入りしていた人を加えると、万の単位であったでしょう。日本なら暴動が起きかねない状況ですが、会場外の警備員はたった2人。スペインでは何をするにも行列をつくらなくてはいけないため、「待つ」ことに関しては慣れっこになっているのかもしれません。
あと、気を付けたいのは、列が2つ出来ていたこと。前売券を持っている人と、当日券を求める人です。これを間違えると、無駄な時間を過ごすはめになります。私は、ここでも失敗しました……
日程、会場の情報、地図、前売り券の入手方法、プログラム等の情報は、主宰者である“FICOMIC”のウェブサイトで入手することができます。また、会場に入ると、インフォメーションでプログラムを配布しています。
3日間の開催でありましたが、私は2日目の夕方に出かけました。金曜日と日曜日は10時から20時までであるのに、土曜日だけは21時までと長くなっていたので。スペインでは、時間の遅い方が盛り上がる傾向にありますし。実は、詳細なプログラムがウェブで公開されていたことに気がついたのは、帰ってからでした(^^; そんなわけで当てずっぽうであったわけですが、この時間帯に出かけたのは大正解。大会の山場とでもいうべきコスプレ・コンクールの開催中でした。で、審査員席を見ると日本人らしき人がいる。誰かと思ってサイン会のブースに行ってみると――
“Yutaka Izubuchi” に “Yuji Moriyama” !?
うわっ、うわ、うわ〜 超豪華だよ〜(*><*)
仮にもアニメを趣味とする人なら知らない人はいない大物が、2人も来ているなんて。しかし、私の興奮とはうらはらに、スペイン人達は司会者の方と記念撮影してばかり。あまり関心が無いみたい。
これは仕方ないことなのかもしれません。なぜなら、これから売り込もうとする作品のプロモーションのために連れてきたわけで。サインコーナーに張り出してあったのは、出渕裕さん側に『パトレイバー WXIII』、もりやまゆうじさん側に『幻想魔伝最遊記』。しかし、パンフレットの表紙になっていた『ラーゼフォン』を含めて、店頭では見かけたことがありません。夏頃のこと、『パトレイバー』の最初の劇場版がDVDになって売り出されていました。テレビシリーズの紹介もされていないのにどうして? と思っていたのですが、今回の布石だったのでしょう。
こうした宣伝活動の結果として、じわじわ人気が出てきます。例えば、昨年(2002年)の第8回大会には渡瀬悠宇さんがいらっしゃっていたようです。その甲斐あって、現在スペインでは『ふしぎ遊戯』をはじめとする渡瀬作品の人気は群を抜いています。その前年、2001年の第7回大会では高田明美さんがいらしていたことが影響して、『きまぐれオレンジロード』の関連商品を良く見かけます。ちなみに、私がこのイベントの存在を知ったのは、高田さんの書かれた日記に記載があったからなのです(←の文中には第5回とありますが、おそらく数え間違いでしょう)。さらにさかのぼると、1998年の第4回大会には“Shingo Araki”という記載が見られ、おそらく『聖闘士星矢』等で知られる荒木伸吾さんをお連れしたのだと思われます。
それにしても、毎年かなりの大物を連れてきていることに驚きます。出渕さんにしろ、もりやまさんにしろ、1年後にはスペインでも大人気になっていることでしょう。私、写真でも撮らせてもらおうかなー、なんて邪なことを思ったりもしたのですが、ぱっと思い出した作品が『ロードス島戦記』と『万能文化猫娘』で(注: この2つ、かるく10年ほど経っている) あまりにも格好が付かないので自粛しました。弁解しておくと、よくよく思い起こせば最近の作品も知ってはいたのですが、OAV全盛期に育った世代なもので……
さて、コスプレ・コンクールです。すごかった、と、ひどかった、が紙一重(汗)
17時にはじまって、終了したのが21時。途中で通し番号に混乱が起こって分からなくなったのですが、確認した中では「258番」というとんでもない数字がありました。しかも休憩無し。もりやまゆうじさんは審査員席から参加者の撮影を楽しんでいたようでしたが、出渕さんからは「早く帰りたいよぉ〜」という負のオーラが漏れ出ていました。
参加者は当日16時までに申請することとなっていたのですが、事前審査で絞りをかけるとかしていなかったようで。とにかく、希望者すべてを壇に上がらせたみたい。
しかも、自由パフォーマンス有り。演じているキャラクターの歌を歌うのは当たり前で、寸劇を演じるところまで登場。これはもはや、小学校の学芸会です。さらに、段ボールでつくったモビルスーツっぽい着ぐるみやら、果てはビン=■ディン氏まで。それは、変装ですって(^^;
面白いのは、作品傾向。日本だと時代遅れなものも、スペインでは最近輸入されたものだったりします。また、日本では知名度が低いのに、スペインでは人気があったり。『エスカフローネ』で会場が湧き上がる、っていうのは日本ではみられないように思います。
そうそう。驚いたことと言えば、「長物」、つまり長剣や槍の持ち込みが可能。というか、壇上で決闘の実演やってるし。パンフレットには、「武器の使用に関する1993年勅令法137号に違反してはいけません」と書いてある。つまり、銃刀法に違反するような本物でなければいいよ、ってこと。なんとも大らかな……。プラスティックで作ってあるとはいえ、危ないような気がする。
バルセロナの人がコスプレをすると栄えますね。フランスに近いということがあって肌の色が白いし、金髪の人も多い。黒い髪を染めるのとは、発色具合がぜんぜん違うの。日本人だと、こうは決まらないよな〜という、うらやましくなるキャラも多数みかけました。
さて、お待ちかねのコスプレ写真です。写真撮影のための決めポーズをとってくれる人が少なかったのが残念。あと、フラッシュを焚かなかったので、ボケまくってます。
その他、「推定体重80kgのプリンセス・セレニティ@劇場版セラムンR」とか、「アタシとかいってる甘食みたいな形をしたやつの着ぐるみ@ちょびっツ」とか、「2本足走行する全長1.8mの温泉ガメ@ラブひな」とか。
ちょっと驚いたのは、「赤いタイツ素材の上に黒いマジックで描き込んだアスカ」。胸と腰のラインが浮き出ている扇情的なプラグスーツでした(汗)
総じて、その人にあったキャラを選んでいるなという印象がありました。♂⇒♀という見苦しいものは見かけませんでしたし。エロゲーが禁輸品ということもあり、ギャルゲーキャラがいなくて比較的判別が楽でした。あれ、スカーフとスカートの色で見分けないといけませんから大変なんですよね。
――とか言ってますが、筆者、かろうじてCレヴォに2回参加したことがあるという程度のイベント初心者です。
土曜日の11時からは、カラオケ・コンクールも開催されていたようです。課題曲は、以下の12曲。どうやら、原語(日本語)のままで歌うことになっていたみたい。優勝者には、360ユーロ相当の漫画が贈られた模様。
『おたくのビデオ』は日本ではさっぱりです(狙いがあざとすぎて避けられているともいえます)が、こちらでは入門教材として使われることが多いです。『ドラゴンハーフ』も、海外ウケする典型例。
驚くべきは、『おねてぃ』まで入っていること。木崎湖まで巡礼に来るスペイン人が出現するのも、そう遠くはなさそうです。あ、ちなみにスペインでもポッキーは売られています。「ミカド」と名前を変えていますけれど。
また、金曜日と日曜日の空き時間には、フリー・カラオケ(Karaoke Libre)というのも用意されていました。この時間帯には、上記の課題曲の他にも選べるようになっています。
あの、『りぜるまいん』のオープニングって、もしかしなくてもアレ ですか?(^^;;;)
数千人の観衆が埋め尽くす会場に大音量で響き渡る
「しましょ♪しましょ♪しましょ♪」 「はふーん」…… 私には想像もつきません。この世の名残に見ておくべきだったと後悔しています。その場で悶え死ぬと思うけれど。もしかすると、バルセロナは秋葉原よりも時代の先を行って(逝って)いるかもしれない。
歌詞の意味が伝わっていないと、こんな怖ろしいことが起きます。来年あたりは、「恋愛CHU!」とか「愛のメディスン」が流れていることも覚悟しておくべきでしょう。
この催し、販促が目的です。そんなわけで、上の階では作品の宣伝のために上映会も開催されていました。テレビで放映されずにDVDを売り出すものが多いので、こういった場で知名度を上げていくわけです。
なんと「在バルセロナ日本総領事館」、つまり外務省も共催しているのです。まぁ、展示物はフヒヤマ(富士山のスペイン語読み)のポスターとか日本人形とかの、ごく無難なものでしたよ。
あと、「あなたに日本の名前を付けてあげます」というのをやっていました。例えば、シエルさんだったら知恵留みたいに。レーザープリンターを持ち込み、毛筆体で出力して渡すの。
チャルムというグループのコンサートもあったようです。どうやら、主題歌の吹き替えをしている女性ユニットらしい。
「ャ」の字が小さいと中国製の偽造品に見えるよねとか、右下のふりふりなキャラは似ても似つかないからやめろとか、もはやそんなことはどうでもいい。
左下。頼むから、『ハチ公レコード』っていうのは考え直してください。
「ファンジン」なんて日本では廃れてしまった言葉なのに。思わず郷愁が。
このイベント、商業資本が中心です。だから、趣旨と傾向からすると、「バルセロナのコミケ」とは言えないのです。言うなれば、西展示棟。それでも、いくつか同人サークルが出ていました。正直なところ、表紙を見ても購買意欲が湧かない未熟なものがほとんど。しかし、中には光るものもあります。おおっ!と思ったのはここ。もう、中を見なくてもどんなカップリングなのかが良く分かってしまう、思い切りのいいサークル名とURLです(笑)
会場の大部分を占めるのは、発売元の直売店や、市内のアニメ/マンガ店。
筆者、会場内ではまったくお金を使いませんでした。陳列されている物は、バレンシアの行きつけの店でも買えるものばかりで。日本からの直輸入品もありましたが、札幌のアニメイトやメロンブックスで買えるグッズを、わざわざ留学先で買う必然性が無いし。
しかし、スペインで海外アニメを買って帰ろうと考える旅行客には、これほど便利な場はないでしょう。ここにくれば、現在出まわっているものが確実に手に入りますから。
そういえば、場内案内図に島(Islas)という用語が使われていました。念のため調べたけれど、そもそも壁配置は存在していませんでした。
子供連れの家族もたくさん来ていまして、遊園地とかにありそうなものも入口近くにありました。
以下、出店していた店舗や協賛企業(一部抜粋)。
Post Script:
「たまたまその日はバルセロナにいるから、行ってみようかな」というかなり間違ったスペイン観光をしたい方、当方までご一報ください。第10回は、2004年10月29日から11月1日までの4日間です。情報提供の見返りに、コスプレ写真の送付をよろしく(^^)
foundation : 02/nov/2003
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